高層住宅における家具類固定の促進に関する提言と
家具等の転倒防止についてのアンケート集計結果
高層住宅における家具類固定の促進に関する提言
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首都圏では毎年5〜10万戸の高層住宅が供給されており、約250万戸(注)、400万人以上が高層住宅で生活しています。
高層住宅内では地震の揺れが大きくなるため、地上で震度5強程度の地震でも家具類の転倒により膨大な被害が発生する恐れがあります(グラフ参照)。
一方、家具等の固定の普及率は東京都で27.8%(H16年)と言われており、普及率を高めると共に確実な固定方法を広めていくことが必要です。
そこで、東京いのちのポータルサイトは、大手住宅供給会社にアンケートを行い、首都圏で供給されている高層住宅ではどのような対策が取られているか調査しました。
アンケート結果は次のように要約されます。
1)家具の転倒防止に効果があると考えられる免震構造の採用割合は、有効回答のあった大手6社の供給戸数の約8%であった。小規模な会社も含めた総供給戸数では8%以下になると推定される。
2)家具固定の為の壁の下地補強をあらかじめ実施している会社は一部で、それも寝室などに限られている。また、顧客の要望によりオプションで下地補強を実施している会社もその実施率は10%程度であり、オプションでの実施も無いとする会社が多い。
3)冷蔵庫や食器棚を置くとされている場所であっても壁に固定のための設備が設置されていない。
4)家具類固定のための設備をあらかじめ設置しない理由を、回答した会社は次のように上げている。
- 顧客からの要望がない
- 固定設備に保障すべき強度の基準がない
- 行政からの指導や規制がない
- 顧客の家具は多様である。要望があった場合にオプションで対応すべきものと考えている。
- 安価な固定具が市販されている
このような結果を踏まえ東京いのちのポータルサイトは表記の提言(2008年10月12日案)をとりまとめました。
(社団法人高層住宅管理業協会 2008年7月31日)
家具等の転倒防止についてのアンケート集計結果
大手住宅供給会社20社にアンケートを行い、6社から有効回答を得ました。
以下に集計結果を掲載します。
※首都圏とは東京、千葉、埼玉、神奈川を指すものとし、高層住宅とは5階建て以上の集合住宅を指すものとしている。分譲、賃貸の区分はしていない。
1.首都圏における過去3年間の平均供給戸数
- 6社合計 16,042戸/年
これは同時期に首都圏に供給された高層住宅のおよそ2割にあたる。
2.免震または制振構造の占める割合
- 6社合計 免震構造 1,270戸、7.9% 制振構造 1,845戸、11.5%
免震、制振併せて供給戸数のおよそ2割に達するが、回答した6社は比較的付加価値の高い高層住宅を供給する大手企業と考えられるので、首都圏で供給されている高層住宅の全数を対象にすると平均値はかなり下がると推定される。
また、免震構造はそれだけで家具の転倒防止に役立つが、制振構造だけでは家具の転倒を効果的には防止できない。
制振構造は、免震構造の適用が困難な超高層建物において、長周期地震動との共振による振幅の増加を防いで安全性を増したり、地震や強風による揺れを早く減衰させて不快感や不安感を和らげたりするのに効果を発揮する。
3.冷蔵庫の固定のためのアンカー設備
- 6社合計 ゼロ(あらかじめ取り付け、オプションで取り付け、共にゼロ)
家庭用冷蔵庫の背面上部にはどのメーカーの製品にも取手が取り付けられている。運搬用を兼ねていると思われるが、製品のパンフレットには地震対策固定用と記されており、固定のためのベルトが別売りされている。
一方、高層住宅などのいわゆるマンションでは冷蔵庫の置き場はほぼ決まっており、冷蔵庫の大きさもそう変わらないので、壁にアンカー設備を着けておけば効果的に利用されるはずである。
4.家具固定のためのアンカー設備をあらかじめ設置
- 6社中4社はゼロ
- 6社中1社(A社)
寝室について供給戸数の90~100%で壁内装の下地補強実施 - 6社中1社(B社)
供給戸数の3%で構造壁にアンカーされた設備を設置 下地補強を実施してあっても実際にアンカー金物を取り付けるかどうかはオプションとされ顧客の判断にゆだねられている。
一部の会社から、内装用の石膏ボードを取り付けるために使われている軽量鉄骨が下地補強なしでもアンカーに使えると考えれば100%設置されていると言える、との意見があった。
5.家具固定のためのアンカー設備をオプションで設置
- 6社中4社はゼロ
- 6社中1社(A社)
供給戸数の10%でアンカー設備の為の壁内装の下地補強を実施 - 6社中1社(B社)
供給戸数の5%でアンカー設備の為の壁内装の下地補強を実施
アンカー設備のための壁の下地補強を5~10%であってもオプションで行っているのが2社で、残り4社はゼロである。
一部であってもアンカー設備をあらかじめ設置する物件を供給している会社は顧客からのアンカー設備設置の要望に前向きに対応しているということであろう。
6.造り付け食器棚の割合
造り付けの食器棚の容量が十分あるので顧客が食器棚を置く必要がない戸数の割合
- 6社の加重平均で約8%
ここに、十分とされる容積は0.8~1.5平方メートルと回答されている。
大部分の高層住宅では居住者が食器棚を持ち込むことを想定しているようである。
7.造り付けのクローゼット・衣装収納庫の割合
造り付けの衣装収納スペースが十分あるので顧客が衣装ダンスを置く必要がない戸数の割合
- 6社の加重平均で約70%
ここに、十分とされる収納庫の面積は3~6平方メートルと回答されている(大きい面積を回答した会社ほど必要がない戸数を小さく回答している、また専有面積の6%をクローゼット・衣装収納庫の面積に当てていると回答した会社が1社あった)。
8.オプションで収納スペースを造り付けた戸数の割合
- 有効回答4社の加重平均で約30%
1社から造り付け食器棚の追加が大部分とのコメントがあった。
9.冷蔵庫や家具固定のための設備をあらかじめ備えていない理由
選択式で複数回答してもらった結果
- 顧客からの要望がない 4社
- 美観や使い勝手を損なう 0社
- コスト増になる 2社
- 高層住宅内が特に危険になるとは考えていない 0社
- アンカーに保障すべき強度の基準がない 2社
- 設置しても顧客が適切有効に利用する保障がない。不適切な利用をされて地震で被害が発生した場合に責任を問われても困る 1社
- 行政からの指導や規制がない 2社
- 顧客の責任で入居時に工事すべき物と考えている 1社
- 顧客から要望があった場合にオプションで対応すべきものと考えている。 その際、構造部材に直接アンカーをとる 0社
- 顧客から要望があった場合にオプションで対応すべきものと考えている。 その際、内装にアンカーを取る方法に限っている 3社
- 顧客から要望があった場合にオプションで対応すべきものと考えている。 その際、アンカーを取る方法は避け、作りつけの家具を薦めている 2社
顧客からの要望がないという理由が4社と最も多いが、アンカーの強度基準が無いことや行政からの指導がないこともそれぞれ2社が選択している。
一部ではあるがアンカーのための設備をあらかじめ設置しているA社とB社は「顧客からの要望がない」という理由を選択しておらず、オプションで対応すべきものという理由を選択している。
10.自由記述
- 顧客がどのような家具を使用するか想定が難しくどのような位置、高さにアンカーを設置したらよいかあらかじめ決められない
- 阪神淡路大震災の直後はアンカー設備をあらかじめ設置したが顧客からの要望がないので現在は設置していない
- 石膏ボード下地の軽量鉄骨が家具固定のための下地として有効と考えればすべて対応済みといえる
- 安価な転倒防止用具が市販されている
などの意見があった。